美容院ジプシーを脱するとは美容師さんに恋に落ちること
仙台に住んで5年近くになるが、一度も同じ美容院に行ったことがなかった。
いわゆる美容院ジプシーである。
それがこの春に運命の出会いがあった。
今までと同じように通勤圏内で行ったことのない美容院を予約して髪が短くなるだけのさほど記憶に残らないイベントになるはずだった。
その美容院は駅前のアーケードの中にあった。
友人の結婚式が終わり、しばらく結婚式に呼ばれないことを悟った私は髪をばっさり切ることに決めていた。
担当であるというぽってりとしたお姉さんは自分の名前と今日の料金を私に伝えた。ここまでは普通だ。
そして私がショートにしたい旨を伝えると、その控えめな態度からは考えられないくらいズバリと短く今日の方針を私に伝えてくれた。
衝撃だった。
平たくいうとギャップ萌えだ。
でも「このお姉さんがいい。運命の美容師だ」とビビッときた。
お姉さんはそれから私に一切話しかけてくることなく、カットは順調に終わり、人生最短の髪を持つ自分が鏡に映っていた。
翌日シャンプーをして髪を乾かしてみたがほとんど広がらない。完ぺきか。
あの衝撃をあとから考えたのだが、そもそも美容師さんの苦手なところがある。
・営業スマイル
・話しかけてくる(特に仕事について)
よくある話だが、私はわりと本当に苦手だった。
私は美容院に平日の仕事終わりに行くので、営業スマイルをされると、本日の営業が終了してる私は笑顔を返すのがめんどくさくてつらい。
「大学で働いてます」と返せば、大学に行っていない彼女らが「すごいですね!」しか返してこないことは経験上わかりきっている。
そして私は雑誌は好きだが買うほどの興味はないので「読める時にたくさん読む」という習慣がある。
美容院は最も適した場所だ。
まじで黙って読ませてほしい。
初めての美容院で渡されるアンケートで、過ごし方についてのご希望の欄では「雑誌を読みたい」に三重丸をつける。
その運命の美容師さんは
・あんまりにっこりしない
・施術中に一切話しかけてこない
(・方針を短くズバリと話す)
と誰もができそうでやらなくて、かつ私が求めていることを見事にやってのけたのである。
私のハートは完全に撃ち抜かれた。
ジプシー歴5年でついに運命の美容師に出会ってしまった。
そんな彼女は10月に地元の美容院へ戻ってしまった。
その1週間前にたまたまカットをしてもらい、帰りにその話を聞いた時、ショックでわりと大きな声を出してしまった。
お姉さんと会話したことがないのに(そりゃそうだ)、最後の最後で感情丸出しで、ありったけの感謝の気持ちを述べてお別れをした。
(「全然話しかけてこないとこがよかったです」と伝えたら「雑誌を熟読されてて、美意識の高い人かと思って…」とのこと。んなわけあるか。こちとら毎回すっぴんで来店してたんやぞ。)
あああああお姉さん最高だったのにまた振り出しに戻ったよおおおおお
脱美容院ジプシーの喜びも担当の美容師さんを失う悲しみも人生で初めての経験だった。
特に担当の美容師さんを失う悲しみハンパない。美容院なんてむしゃくしゃした時に行くだけのイベントだったのに。
半年間どうもありがとうございました。
これからもどうかそのスタンスでいてください。
必ずハマる方が現れます。